きのうはたくさん雨が降ったね

「ねえ、かえるさん。」「かえるくん。」と、かえるくんは指を一本立てて訂正した。「ねえ、かえるくん、きのうはたくさん雨が降ったね。いろんなものが流されてしまったね。」

2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

規格外

牛乳なんて好きではないままこんなにぐんぐん大きくなってしまつたけれど唐突に、飲みたくなっていま、こうして飲み干したグラスの半透明を見ていると、どこからか健全な熱、のようなものが起こつてあとは布団の中で朝を迎えるだけの身体をどうにも持て余し…

いつもかわいい―二月かばん歌会―

はじめて実際にお会いしたひとびとはみな短歌、短歌をつくるひと、歌人だった。表現のかたちはさまざまあって、たとえば小説のそのひろがりは、長さにおいて無限、詩は行分けをとることによってそこに作者の息づかいが生れわたしはそのつらなりに呼吸をあわ…

あそびにおいでよ

はじめて西武池袋線に乗って、目につくのは座席の色とたくさんのひとの歯ぐき。 としまえん 凡てのごみ箱からさがすたったひとつのひかるスイッチ

脱出

小学校3年生の学芸会の劇は僕の第一声で始まるのでした。その一言が大きな声で言えるかということが(大人たちにとって)とても重要だったのでその言葉を大きな声で言えるかどうかのオーディションがありました。晴れてそのオーディションを勝ち抜いた僕は…

女の子

なんにもないのにかなしいと、はじめて全身で感じたのは五歳のとき海老茶色の床のお教室でほかの友だちとペンでお絵かきをしているとき、わたしが描いたうさぎははだいろ一色でみんなに見られないようにうさぎの部分だけちぎってずっとポケットに入れていた…

ほこら

帰り途、前田さんちの門灯に寄せられて、ひかりにおでこをつけたらまなうらでとても、明るかった。 けんじも知らないゆうまも知らないたくやも知らないわたしは明日みどりの窓口にゆこう。 「ほかのなにものでもないということを祠のなかではひみつにしてる」

石緑

黒鍵のいつまでも探し当てられぬアコーディオン弾きを森に残して 窯のなかのひつじのことをうやむやにして ブーツのかかとを切り落として 犬より劣る鳴き真似をして 毎日あなたの 靴ひもの心配をしています 天井のあまたの電灯は瞬きごとにふたつに分裂して…

おりたたまれて

たくさんの本をもとの本棚に戻してはまた、繰り返し身体の規則正しい運動にはなはだ困憊しきり綿のような身体で涙線のかくもゆるむのは、 このごろまれのことでそれもただ身体をのみ酷使した場にはさだまらぬ情緒すら浮かばぬ落涙のある、 深く息を吸い込ん…

神社なのにだれもいない

今朝道路脇でショッキングピンクの「つの」を拾った。「つの」は弾力があってすこし、湿っている。むかしつるバラの、棘を折って唾をつけ鼻のあたまに乗せていた要領でショッキングピンクの「つの」を鼻のあたまに乗せて少し歩く。 登校中の子どもの声に「こ…

ほつかいどうはいまもさむい

四歳のときだったか五歳のときだったか、まだ道路脇に堆くゆきの残るきせつ、母と駅前の横断歩道で信号をまっていた、わたしはそのときのかぎりの淫靡なことばを発そうと、それで母に「おんち」とはつきりと一音一音区切つてそう云ったのだった。 母は眼をま…

大きなホテルが閉店しました

ふゆの陽にさらされ確実にうすく軽く小さくたよりなく、なってゆく洗濯ものを ゆつくりと畳む一日をおもつて 少女の眸のふるえを捉えたいつしゅんのあなたの瞼眼にも いつとはしれずふゆの日にゆつくりと、深呼吸するいつしゅんをうつして そうして終点の、…

あざみ野のライオン

午後、大きな道路沿いを歩いていたら、ライオンが前からやってくる。 ライオンだライオンだライオンだ、と息を止めながらはや足で、ライオンの前を通り過ぎる。わたしのちょっと後ろを歩いていた友人も、ライオンだったね、と言っていたのでやっぱりあれはラ…

たこはたこ焼きの中におさまり、イカはジェット噴射で空を飛ぶ

パーソナルスペースの大きさは人それぞれです パーソナルスペースは一人の人の中でも時と場合によって大きさが変わります パーソナルスペースを侵さないようにしよう パーソナルスペースを侵さないようにしよう 倉田百三は、非常に優秀な学生だったのに、独…

おじいさんが塩キャラメル

リリー・フランキーはメトロを利用、するだろうか、半蔵門線を利用するだろうか。 ハンマーを手に持ってとにかく砕きなさい、ということばだけがずっと、響いている。 わたしがまずは、からっぽになってひとかたまりのことばを手繰り寄せたい。 つるつるの舌…

さういふふうであれ

きついスケート靴を履いて(靴ひもに、苦戦した)わたしは氷上に二本の細く鋭い刃を立てて、スケートをしている。わたしはスケートをこれまでにしたことがあったか、スケート、アイスの上を優雅に滑る遊びしかし、なんとも寒そうである。冬の、遊びである。 そ…

ハレンチワードその1

いつか高校生に戻って、急にお腹が空いたり眠くなったりする一瞬を過ごして、どっちの携帯が重いってこれって赤外線っていや違うよこれはカメラでしょ、えー、ちがうよー赤外線だよー、ちげーよー、このやろ、このやろこのやろ、って次の瞬間にはキスしてい…

ろ過

上目遣いをおぼえたフレンチ・ブルドッグはボーダーの服を着て 得てしてフレンチ・ブルドッグの こぞってボーダーの服を着ている きみ ケーキ屋の前で半身をたたむひとを愛おしんで <都市交通>タクシーの車体のいろをおしえて きみ ボーダーの服を着ていな…

森閑

乳白色の湯槽にゆつくりと躯を沈めひざ小僧の浮かびあがるくつきりとした色を見て 太ももに浮き出る血管のどうも目立つと云う 妹の腰のまわりのいつのまにやらまとわりついたあの 空間にはなにがあるのか ひつそりとした 一本のみどりを思わせ シャワーから…

書くことには勇気がいる、ということについて

手袋を片方だけ無くしてしまった。三年連続五度目。今年も一シーズン使い続けることができなかった。片方がいなくなると、家にいるもい一方も、色あせて見える。仕方ないので今日は上着を着ずに家を出る。買ったばかりのそれを無くすといけないからマフラー…

つまらなことをつまらないといって

ざっくりとしたセーターを被ったまま、へやにこうしてとてもひとりだ。 ハンカチにくるむ真夏のとかげたち息づくものの舌はやさしい