きのうはたくさん雨が降ったね

「ねえ、かえるさん。」「かえるくん。」と、かえるくんは指を一本立てて訂正した。「ねえ、かえるくん、きのうはたくさん雨が降ったね。いろんなものが流されてしまったね。」

規格外

 牛乳なんて好きではないままこんなにぐんぐん大きくなってしまつたけれど唐突に、飲みたくなっていま、こうして飲み干したグラスの半透明を見ていると、どこからか健全な熱、のようなものが起こつてあとは布団の中で朝を迎えるだけの身体をどうにも持て余している。

 仲間のあいだで誰の唇が一番紅いかということを、給食室の裏で、各々の唇を定めあつたりしたこと思い出し、そのときから唇を、不自然に噛むくせがわたしにはあつたんだなあとふり返る。

 あたまを抱えたまま、わたしに向けられる視線というものがないのだと、気づいてからもずつと不自然に唇をゆがめたまま、どうすることもできずに自意識のうすい膜を増やしていつた。唇の紅を失わないように、噛み続けるのが冬だつた。