おりたたまれて
たくさんの本をもとの本棚に戻してはまた、繰り返し身体の規則正しい運動にはなはだ困憊しきり綿のような身体で涙線のかくもゆるむのは、
このごろまれのことでそれもただ身体をのみ酷使した場にはさだまらぬ情緒すら浮かばぬ落涙のある、
深く息を吸い込んだままでまなうらにくゆる色をみとめゆつくりと、吐くとともにわたしはいま落涙するのです。
「私は段段悲しくなって来て、涙が何時迄も止まらずに流れた。そうして、こんな事を考えた。目玉の中から出る涙と、心の奥から出て来る涙とある。心の奥から出た涙でも、心は涙の通るのを知らずにいることがある。出て来た涙を見た後で、初めて心の奥を知る時もあるだろう。そうだそうだ、どうやら解りそうになって来たと思って、私は猶の事泣いた。」内田百閒/波止場