きのうはたくさん雨が降ったね

「ねえ、かえるさん。」「かえるくん。」と、かえるくんは指を一本立てて訂正した。「ねえ、かえるくん、きのうはたくさん雨が降ったね。いろんなものが流されてしまったね。」

神社なのにだれもいない

今朝道路脇でショッキングピンクの「つの」を拾った。「つの」は弾力があってすこし、湿っている。むかしつるバラの、棘を折って唾をつけ鼻のあたまに乗せていた要領でショッキングピンクの「つの」を鼻のあたまに乗せて少し歩く。 登校中の子どもの声に「こ…

ほつかいどうはいまもさむい

四歳のときだったか五歳のときだったか、まだ道路脇に堆くゆきの残るきせつ、母と駅前の横断歩道で信号をまっていた、わたしはそのときのかぎりの淫靡なことばを発そうと、それで母に「おんち」とはつきりと一音一音区切つてそう云ったのだった。 母は眼をま…

大きなホテルが閉店しました

ふゆの陽にさらされ確実にうすく軽く小さくたよりなく、なってゆく洗濯ものを ゆつくりと畳む一日をおもつて 少女の眸のふるえを捉えたいつしゅんのあなたの瞼眼にも いつとはしれずふゆの日にゆつくりと、深呼吸するいつしゅんをうつして そうして終点の、…

あざみ野のライオン

午後、大きな道路沿いを歩いていたら、ライオンが前からやってくる。 ライオンだライオンだライオンだ、と息を止めながらはや足で、ライオンの前を通り過ぎる。わたしのちょっと後ろを歩いていた友人も、ライオンだったね、と言っていたのでやっぱりあれはラ…

たこはたこ焼きの中におさまり、イカはジェット噴射で空を飛ぶ

パーソナルスペースの大きさは人それぞれです パーソナルスペースは一人の人の中でも時と場合によって大きさが変わります パーソナルスペースを侵さないようにしよう パーソナルスペースを侵さないようにしよう 倉田百三は、非常に優秀な学生だったのに、独…

おじいさんが塩キャラメル

リリー・フランキーはメトロを利用、するだろうか、半蔵門線を利用するだろうか。 ハンマーを手に持ってとにかく砕きなさい、ということばだけがずっと、響いている。 わたしがまずは、からっぽになってひとかたまりのことばを手繰り寄せたい。 つるつるの舌…

さういふふうであれ

きついスケート靴を履いて(靴ひもに、苦戦した)わたしは氷上に二本の細く鋭い刃を立てて、スケートをしている。わたしはスケートをこれまでにしたことがあったか、スケート、アイスの上を優雅に滑る遊びしかし、なんとも寒そうである。冬の、遊びである。 そ…

ハレンチワードその1

いつか高校生に戻って、急にお腹が空いたり眠くなったりする一瞬を過ごして、どっちの携帯が重いってこれって赤外線っていや違うよこれはカメラでしょ、えー、ちがうよー赤外線だよー、ちげーよー、このやろ、このやろこのやろ、って次の瞬間にはキスしてい…

ろ過

上目遣いをおぼえたフレンチ・ブルドッグはボーダーの服を着て 得てしてフレンチ・ブルドッグの こぞってボーダーの服を着ている きみ ケーキ屋の前で半身をたたむひとを愛おしんで <都市交通>タクシーの車体のいろをおしえて きみ ボーダーの服を着ていな…

森閑

乳白色の湯槽にゆつくりと躯を沈めひざ小僧の浮かびあがるくつきりとした色を見て 太ももに浮き出る血管のどうも目立つと云う 妹の腰のまわりのいつのまにやらまとわりついたあの 空間にはなにがあるのか ひつそりとした 一本のみどりを思わせ シャワーから…

書くことには勇気がいる、ということについて

手袋を片方だけ無くしてしまった。三年連続五度目。今年も一シーズン使い続けることができなかった。片方がいなくなると、家にいるもい一方も、色あせて見える。仕方ないので今日は上着を着ずに家を出る。買ったばかりのそれを無くすといけないからマフラー…

つまらなことをつまらないといって

ざっくりとしたセーターを被ったまま、へやにこうしてとてもひとりだ。 ハンカチにくるむ真夏のとかげたち息づくものの舌はやさしい

南北回帰する

毎日ただほんとうに、なんということもないのですが日にあった、たとへば今日、電車のなかで「つすす」と笑ってしまったのを思っていてつすす、と漏れいづる笑みをかようにわたしは共有できるのですね、電車ではひとりだったのにそこに立っては窓の外を見遣…

口頭試問のこと

コの字型のつくえを挟んで向かい合った向こう岸から 「わたしにわかるように、ひとつ何か詩的言語の例を、具体的な詩を引用して、示してみて下さい」と、 わたしはそのとき黒い表紙にひかる印字をおもっていたけれど名前が出てこず 溶ける魚、といいかけて噤…

してきなことだけおしえてください

車輛のはじの席の窓に頭をもたせかけ上を見遣ると車輛と隣の車輛のすきまから空が見えるんですね空空空空空トンネル空、ずっと空駅の屋根だ空空空、電車の屋根が透けていたら走りながら雨が当たるのも見えるのにな、それはとてもいいな。 はとバスには二階部…

まよなかにおきてるかのこと

靴底の擦り減り方がおかしいひとには近づきたくない、いますぐにでもあの鏡で自分の顔を確かめなければすべて――わたしがすべてだと思っているすべてが崩れてしまう気がした、 リップクリームを片手で開けるひとになったら(だめ・あかん・いけない)。(とい…

関西弁はわたしのことばではない、夏

<きゅうこうでんしゃ>が通過する、直前に初老の女性のわたしの前を、わたしは黄色い線の内側すれすれのところに立っていたので女性は黄色い線の真ん中を、わたしに少し体当たりしながらそして<でんしゃ>が通過。 <でんしゃ>が通過するときわたしは歌を…

おでんはじめました

夏には、冷やし中華はじめました。 (でもまだきみに手紙は送っていません。) 冬には、おでんはじめました。 (でもまだきみに返事を書いていません。) 春には、なにをはじめよう。 まだなにもはじめてない。 なにをはじめよう。

こんびなーと

生徒たちが地形図の読み取り問題を解いているその頭頂部をこちらに向けるのでかの女らの白い頭皮がどうしても迫ってくる、友岡子郷のような俳句でも詠めるかと思ってぼんやりと白い頭皮を見ていて地形図の、 はい十分経ちましたみんな全部解けたねはい顔上げ…

はじめてライブに行ったきょう

たくさんの、うたをきいて色んないろのひかりに包まれながらうたうひとをしっかり目にしようとして呼吸が浅くなったきょう。 ちゃんと飲み込んでまたわたしのことばにしようと思うから今夜感じたすべてにとりあえず蓋をして、うたはこんなに届いちゃって、す…

トヨエツ

「ワニ顔 俳優」とぐーぐるで検索すると、「なぜ韓国の女性歌手は太ももを露わにするのか?」と出てくる。 ずらずら並んだたくさんのまさに「ワニ顔」をながめているわたしはこんなうたを思い出す。 いるかはざんぶらこ いるかはざんぶらこ しかしどうしても…

べびーおいる

(わたしたちは)たのしくやっています(わたしたちは) ジャイアントパンダとも仮名垣魯文ともじょんそんあんどじょんそんとも 仲良くすることができる(わたしたちは) つまりなにも見ていないのです (わたしたちには) きこえているのですざらざらの湿度…

目を閉じること耳を塞ぐこと

かえるくん「雪のあるところに行きたいな」 そうか。じゃあ、そこでスキーやスノボをしようか。 「いや、スキーやスノボはしない。断固としてしない。」 ふぅむ。なるほど。しないか。じゃあ北海道とか。北海道。 「ほっかいどう」 そう。北海道。飛行機で行…

つやつやの馬

あさの電車でおばさんがわたしのスカートの裾に傘を引っかけてしまって今日はあさから雨が降っていた、おばさんは立ちながら居眠りしているのでわたしのスカートの裾に傘がひっかかっているのに無論気づかない、わたしはそのとき、こんな文章を読んでいた、 …

アルタのこと

今日ひとに云わなかったことはふたつ。 新宿駅東口から直通のルミネのエスカレーターには鏡がついていて一瞬、エスカレーターはふたつあるのかと思ったけど鏡の方には乗らなくてよかったこと。 一日お腹に貼るカイロを貼っていて、とてもあたたかかったこと…

そうだったのか

かえるくん。 雪のあるトコに行きたいぶかぶかのストレスたちをリヤカーに乗せ そうか。

そんなの違う

4日間引きこもり? 違う。 だって、日曜日の午前中はちょっと外出したし、その夜だって駅の近くで飲んだし、朝にはゴミ出しをしたし、今日だって雪かきをしたし。 でも、体感的には、休み過ぎた。 明日から電車に乗るのが少し不安だ。 忘れたいこと忘れろア…

小銭の全国行脚

部屋で緑茶を煎れて飲みながら、かりんとうをぼりぼり食べている。 これを書いているノートパソコンが載っている机の傍らには、10円玉が20枚以上置かれている。50円玉が2枚くらい、1円玉も3枚くらいある。最近、お財布ケータイという新機能が便利な…

なんにも見てない目で

今日はほんとは東京へ出て回転寿司を食べる予定だったけど回転寿司は今日じゃなくてもちゃんとまわってるのでやめにした。 やめにしようかという電話をしながらわたしはフローリングの溝に爪走らせてたら一日が過ぎたからとくべつな、雪の日を今も過ごすみん…